コンテンツへスキップ

上智大学教授中野晃一と元大学院生出崎幹根の「主戦場」研究不正事件と大学当局の対応について(文科大臣への報告)(続き)

3 出崎の「卒業制作」研究の実施経過
 
今回の上智大学を舞台とした研究不正事件を時系列的にまとめると次のようになります。

① 大学院生出崎幹根は、指導教員中野晃一教授の指導の下に、自身の学位審査要件である学術研究(卒業制作)として、フィールド研究における聞き取り調査映像によって構成される映像作品を制作する研究計画を立てた。(2016年4月頃と推定される)

② 上智大学では、フィールド研究において聞き取り調査を実施する場合、その研究によって研究対象者に苦痛を与えるなどの利益侵害が起きることを未然に防ぐために、「人を対象とする研究」の倫理委員会の審査を事前に受けることを研究着手条件として定めている。ところが、本研究は、その手続きを完全に無視して研究に着手した。

③ 大学院生出崎は、2016年5月から翌年2月までの期間に、研究対象者8名(本報告発出主体の上記5名に加えて、加瀬英明、櫻井よしこ、杉田水脈の3名)に対してメールその他の方法で個別に研究協力を依頼し、8名のインタビュー映像を研究資料として入手した。

④ しかし、インタビュー調査は、「人を対象とする研究」の実施要件として上智大学が定める要件、即ち、研究対象者への研究計画書の交付、研究同意書書式の交付、同意書面の保管、同意撤回書式の交付、その他インフォームド・コンセントの手続きをことごとく無視して実施された。

⑤ その一方で、大学院生出崎は、インタビュー調査実施時に、学術研究への「研究参加同意書」であるかのように擬装して「承諾書」「合意書」のサインを詐取した。これは、被害者からの予想される抗議に対して法的に対抗するための準備であり、それを後に、商業的に公開された映画への「出演承諾書」であると強弁するための行動であった。

⑥ 指導教員中野晃一教授は、大学院生出崎に対して、上記のかくれた目的をもった「承諾書」の取得を、出崎の学位審査要件である学術研究課題作成の着手要件として課しており、商業映画への映像の転用は指導教員中野教授と示し合わせて行われたものであった。この点について具体的に言えば、承諾書へのサインを拒否した藤岡へのメールで、出崎は「私たちの指導教官(ママ)と話しましたところ、(中略)やはり承諾書へのサインなしには、ドキュメンタリーの製作へ着手することが難しいと言われました」(出崎から藤岡へ、2016年9月12日)と書いている。

⑦ 大学院生出崎は、完成した学術研究課題(卒業制作)を2018年1月10日、上智大学大学院に提出し修士の学位を得たが、卒業制作についても学位取得についても、何ら研究協力者8名には連絡しなかった。

⑧ その一方で、学術研究を通して入手した研究対象者らの研究資料(インタビュー映像)を研究対象者に無断で用いて映画を作成し、2018年10月釜山での映画祭において一般公開し、2019年4月からは配給会社を通して商業映画「主戦場」として日本で一般公開した。

⑨ 商業映画の一般公開後、8名の研究対象者(研究協力者)は、初めて出崎の学術研究の意図と性格を伝え聞くことになり、その内容が、8名の研究対象者(研究協力者)を一方的に攻撃し、反論を許さず、しかも人格的に侮辱するものであることを認知するに至った。

⑩ 7名の研究対象者(研究協力者)らは、5月30日、記者会見を開き、公開されている映画の上映中止を出崎に対して要求した。しかし、出崎は映画配給会社・東風とともに、6月3日、対抗して記者会見し、私たちの要求を拒否した。そこで、被害者5名は、6月19日、出崎と東風を相手取り、上映中止等を求めて東京地裁に民事訴訟を起こした(令和元年(ワ)第16040号)。

★今回は、「インフォームド・コンセント」についてです。

上智大学教授中野晃一と元大学院生出崎幹根の「主戦場」研究不正事件と大学当局の対応について(文科大臣への報告)(続き)

2 研究協力者の安全を保障するインフォームド・コンセント

 学術研究において研究対象者の安全を保障するために設けられているのが、インフォームド・コンセントと呼ばれる次のような権利義務確認の手続きです。

第一に、研究対象者には、研究計画の全容について事前に十分に説明を受ける権利があり、研究者には、誠実に説明する義務があります。

第二に、研究者は、研究対象者の研究参加への同意を取り付けた上で、それを書面(研究参加同意書)によって表明してもらう必要があります。

第三に、最も重要な実体的権利義務として、研究対象者には、研究参加への同意をいつでも撤回する権利(撤回権)の行使が認められています。そして、その権利の存在を、研究者は研究開始の前に、研究対象者に明確に伝える義務があります。撤回権行使の具体的効果は、当該研究調査によって入手した研究対象者本人に関わる全ての研究資料を、当該研究で使用させず、また、他の研究を含む一切の別の用途にも使わせないことです。理由の如何に関わらず、本人が研究参加への同意を撤回した時点で、本人から取得した研究資料を回収・破棄しなければならない研究倫理上の履行義務が研究者に発生するのです。

上記3つの権利義務の履行を研究者が意図的に懈怠した場合、「人を対象とする研究」倫理上の重大な研究不正があったことになります。上智大学を含む各大学は、こうした研究不正が起こらないように内規を定め防止に努めています。ただ、個々の大学でどの程度の内規が整備されているかに関わりなく、上記の権利義務関係が成立することは学術共同体の共通了解事項であり、研究者なら誰もがわきまえている自明の規範です。

【資料】10月1日の文科省の記者会見で、こういう席に必ず出て来る朝日新聞の北野記者は、上智大学の規定の根拠がないかのように、執拗に質問してきました。自分で関心がなく、一度も調べたこともないのでしょう。上智大学は、規定は整備されているほうです。だからこそ、中野・出崎はそれを無視しなければ、保守派言論人を騙して映像を撮ることができなかったのです。以下に、上智大学のインフォームド・コンセントの規定を示します。

 ★今回から、10月1日の文科省報告文書を連載します。タイトルは「上智大学中野晃一と元大学院生出崎幹根の『主戦場』研究不正事件と大学当局の対応について」です。適宜、関連資料や事実を補足します。

文部科学大臣 萩生田光一 殿         令和元年(2019年)10月1日

ケント・ギルバート
藤岡信勝
藤木俊一
トニー・マラーノ
山本優美子

上智大学教授中野晃一と元大学院生出崎幹根の「主戦場」
研究不正事件と大学当局の対応について(報告)

1 研究倫理の存在理由

 上智大学の中野晃一教授とその指導下の元大学院生・出崎幹根(日系二世の米国人)が犯した研究不正事件と大学当局の不誠実な対応について、被害者の立場からご報告いたします。はじめに、研究倫理の存在理由について基本的な位置づけを確認いたします。 

 一般社会では、法に違反しなければ、ほとんどのことが許容されます。しかし、学術研究の世界では、法を順守するだけではなく、研究倫理規範にも従わなければなりません。そのような倫理規範が独自に存在するのはなぜかというと、それなしには学術研究そのものが成り立たなくなるからです。

 研究倫理規範の一つは、「捏造・改竄・剽窃」をしないという規範です。即ち、「嘘をついてはならない」というものです。学術研究において「嘘をつく」ことがありうるとしたら、真理探究の手段としての学術研究はその存在価値を失います。

もう一つの研究倫理規範は、「研究対象者に被害を与えてはならない」という規範です。人の行動や思考その他に関するデータを研究調査の対象とする全ての研究は、研究対象者からの善意の協力がなければ成り立たないものです。もしも、この「研究対象者に被害を与えてはならない」という研究倫理規範が守られなければ、善意で研究に協力する者は被害を受けることも覚悟しなければならない、ということになります。そうなったら、研究協力者は誰もいなくなり、研究基盤が崩壊します。

研究倫理規範に反する研究不正が発覚した場合、研究機関(大学等)は、研究不正を厳格に調べ上げ、再発しないように処分を下さなければなりません。そこに故意が認められた場合は、違反者は学術の世界からの追放をも免れません。もしも、こうした研究不正に厳正な対処がとられなかったとすれば、学術研究が「嘘をつき」「研究対象者を攻撃する」こともあり得るということになります。そうすると、学術研究は成り立たなくなります。ひとたび許されると、別の研究において繰り返されないという保障は何もなくなるからです。

研究不正は、学術共同体全体の信用を左右するものです。信用修復に一次的な責任を負うのは研究機関ですが、個々の研究機関は学術共同体からその調査と処分を委任されているという関係にあります。もしも、当該研究機関に再発防止の自浄作用が働かなかったならば、次に学術共同体全体の付託を受けている監督官庁が、研究不正の解明とともに、研究機関についてもその適格性を問わなければならなくなります。そうして、当該研究不正に関与した研究者と、その是正に失敗した学術機関の両方に処分を実施して、学術研究への信用を回復することになります。

監督官庁がこの信用修復に失敗したとすれば、その国の学術研究は終焉を迎えます。

            ◇

【補足】ここで述べられている「捏造・改竄・盗作」の事例として、上智大学で最近起こった修士論文の取り消し・修士号剥奪の事例を大学の広報記事から引用します。

お知らせ

2019.08.21

修士論文の不正行為について

このたび、2018年3月に本学大学院総合人間科学研究科博士前期課程を修了し、「修士(教育学)」の学位を授与された大学院生の提出した修士論文に不正の疑いがあるとの通報があり、調査を実施いたしました。

当該調査の結果、当該学生による盗用・剽窃及び捏造が認定されました。本件は、著しく研究倫理に反するものであるとともに、本学の学位及び教育研究活動の信頼性を損なうおそれのあるものです。

以上のことを受け、本学は、当該学生に対して、本学大学院学則及び学位規程に基づき「修士(教育学)」の学位授与を取り消し、学位記を返還させました。

本学では、すでにオンライン講座や研修会等、研究倫理に関する教育活動を実施してきているところですが、今後も倫理教育を継続的に実施するとともに、このような不正行為が発生しないよう、さらに再発防止に努めるものとします。


2019年8月21日 
上智大学長 曄道 佳明

 【コメント】同じ修士課程の修了研究の論文について、このような処分を上智大学はおこなっていました。2018年3月と言えば、出崎が終了したのと同期です。こちらの不正事件はこのように処理しているのに、同期卒業生の出崎に対する告発は、告発自体を2ヶ月間も、当方から内容証明郵便を送りつけるまで、大学当局は握りつぶし続けたのです。このダブルスタンダードはなぜ起こったのでしょうか。言うまでもありません。それは、出崎と共同正犯関係にある指導教授・中野晃一を大学当局が守るためです。ともかく、上智大学はまず、上記の院生と同じように、出崎の修士論文の取り消しと修士号の撤回、学位記の返還をさせなければなりません。

★中野-出崎の研究不正事件について、10月1日、文科省に報告し、記者会見を行いました。今回からシリーズで詳報します。

■出崎が持ち歩いた名刺が語る詐欺師のテクニック【拡散希望】

まず、下の名刺を20秒くらいジッとご覧下さい。何か気付くことはありませんか?

では、これから謎解きです。

  1. 上智大学の校章が大きく描かれています。いかにも「上智大学」を印象づけようとしています。
  2. 肩書きには「大学院生」とだけしか書かれておらず、大学院の研究科やコースなどの所属が全く不明です。
  3. そのうえ、住所には四谷校舎の代表のものだけが記載され、連絡先として意味をなさないものでした。
  4. E-mailのアドレスも、XXX.sophia@gmail.comという、大学が正規に発行して学生に割り当てるアドレスを擬装するという手のこんだものでした。
  5. もちろん、大学が正規に発行するアドレスのドメインは、XXX@sophia.ac.jpです。

あなたは、いくつ、気付きましたか。

この奇妙な名刺が示しているのは、上智大学の権威によって私たちを信用させたいが、決して、身元につながるような情報は与えたくない、という鞏固な意図と作為です。

出崎は、他に2人の大学院生を連れ歩いていました。彼らが持ち歩いた名刺を含む3人の名刺を裏側の英語の表記も含めて一挙に並べると、上のようになります。 出崎は2人の同期生をさそって自分の「卒業制作」に巻き込んだ、という解釈は間違いです。3人は、詐欺の確信犯からなる共犯グループと断定して差し支えありません。

 (11)先に述べたとおり、私たちは三つの段階を経て貴学に研究倫理に反する不正行為を訴え続けてきました。この告発は完全に貴学の研究倫理規定に則したものであるにもかかわらず、貴学は門前払いをするか、無視するという態度に出ました。最後の段階では、内容証明郵便にて「通告書」を直接、学長・理事長宛にお送りしたわけです。
 すると、そのとたんに調査委委員会の発足が告げられ、人選の原案が届けられる展開となりました。4月27日から数えてまる4か月、6月の監査室への通報から数えても2か月半という長期間にわたって、全く私たちの告発を取り上げようとせず、内容証明郵便を受け取って初めて当方ににわかに連絡をするとは、問題の認識の欠如と誠意の欠落を疑います。

 (12)貴学がそのような行動をとった理由は、いただいた文書の中から垣間見えるものです。私あての文書の冒頭には、次のように書かれています。
 「標記の件について、2019年6月21日及び同月24日に貴殿から本学修了生が在学中の2017年度に制作したGraduation Project について『上智大学人を対象とする研究に関するガイドライン』に基づく審査や手続きを経ておらず、研究活動上の不正行為の疑いがある旨の通報がありました。」
 ご覧のとおり、ここには大学院生の指導教授である中野晃一教授の責任が、調査の主題として全く書かれていません。先に言及したとおり、中野教授は単に出崎の形式上の指導教授であったのではなく、学術研究の名を騙って承諾書を詐取しようとした行為の共同正犯であり、しかも私から承諾書のサインを取らなければ研究に着手してはならない、とまで課して、この詐欺行為を先頭に立って推進していたのです。
 貴学学長におかれては、通知を私あてに発信する時点ではすでに内容証明郵便による「通告書」が手もとには届いていたわけですが、それを無視するかのような対応をしています。そのことは、この問題を、卒業した大学院生のみの問題として矮小化し、中野教授の責任を全く不問に付すという態度の表れと断じざるを得ません。だからこそ、よりによって、中野教授の人脈にあることが明白な人物を委員や委員長に選んで、調査委員会を組織したという形だけを作って見せた上で、問題なしという結論を出して終わりにする、という狙いであることは見やすいことです。遺憾なことに、こういうやり方にはそのどこにも、公正性・中立性・客観性を求める学問共同体のリーダーとしての真摯な態度が感じられません。

 (13)私たちは二つの異なる告発をしているわけではありません。事件は一つで、不正行為が疑われる対象者は二人です。6月時点の告発が主に元大学院生を対象としていたという屁理屈をつけるのであれば、直ちに中野教授に関する告発を監査室に対して行います。しかし、それは時間とエネルギーのロス以外の何ものでもありません。「通告書」を正面から検討するのか、あくまで無視するのか、この点に関して明確なご返答をいただきたいと存じます。
 予備知識のない当方には、僅か7日間で異議申立の判断を迫ったのですから、この異議申立への返答はそれと同等ないしそれよりも短い期間で回答するように要求します。私たちは調査に協力することはやぶさかではありませんが、もし明確に忌避した当方の人選に関する異議が無視されるなら、可能なあらゆる手段をもってことの真相を明らかにし、上智大学の責任を追及することになると申し上げておきます。
学長におかれましては、貴学の信用と名誉がかかっていることを十分ご認識いただき、研究者としての真摯で適切な対応をされるよう強く要請いたします。なお、この文書の写しを、上智学院理事長にもお届け下さいますようお願いいたします。

(以上)

 (5)次に、以上を踏まえた上で、9月4日に送られてきた文書が求める、委員の人選に関する異議申立を行います。しかし、具体的な内容に入る前に、まず一般的に、この種の調査委員会の人選に関する原則を検討しておきます。
 今回のようなケースの場合、調査委員となるべき人物は、次の条件を満たすべきです。
 (a)本件卒業制作に主題として扱われているテーマに関連する言論や運動に関わっていない者でなければなりません。それは、判断の中立性を確保し人脈的繋がりを避けるためです。
 (b)外部有識者については、上智大学に在籍していた経歴のない人物であるべきです。
 (c)研究者については、現役の研究者であることが必要です。本委員会の中立性は、委員が自身の職業的信用を賭けて判断を下す点によってのみ担保されうるものといえます。証拠を無視したり、必要な検討を懈怠して判断を導いた場合、本人の学術的信用が打撃を受けるという重みがなければ、どのような恣意的な結論も導いてしまうことが可能です。従って、研究者として現役を退いた者は不適格である、ということになります。

 (6)9月4日に着信した文書によれば、今回の調査委員会委員(候補)の名簿は次の通りです。

 ① A(本学教員 外国語学部ドイツ語学科)
 ② B(本学職員 学長付)
 ③ C(外部有識者)
 ④ D(外部有識者(弁護士 卓照綜合法律事務所))
 ⑤ E(外部有識者(弁護士 卓照綜合法律事務所))

 (7)まず、①のA氏は、外国語学部ドイツ語学科の教授で、選出根拠は、内規第11条第4項の(1)に、「研究活動上の不正行為が疑われる被告発者の所属組織(学部又は研究科等)以外の教員1名」とあることによるもので、被告発者の所属組織(大学院グローバル・スタディーズ研究科)とは異なる、外国語学部ドイツ語学科に所属していますから、形式的にはこの内規の規定に合致しているように見えます。
 しかし、そもそも、内規第11条第4項には、「調査委員会の委員は、告発者及び被告発者と直接の利害関係を有しない者で、学長が指名する次の各号に掲げる者とする」という規定があって、その原則の一つの適用例として、(1)の同一の研究組織からの選出を避けるという規定があるものと解されます。
 そこで、この原則に基づいて検討してみると、A教授は中野晃一教授とは所属こそ異なるものの、両者は研究上密接な間柄にあることがわかります。例えば、A教授は、「ソフィア・コミュニティ・カレッジ」の2016年度秋期教養・実務講座「18歳からのメディア・リテラシー」のコーディネーターを務めていますが、10回の講座の中で基調講演の位置を占めると考えられる第1回の講師として中野晃一教授を据えています。
 しかも、10人の中には、荻上チキ(評論家)と堀潤(ジャーナリスト・元NHKアナウンサー)の両氏が含まれています。両氏は、4月20日に「主戦場」の一般映画館での上映が始まった直後の4月24日と25日に、それぞれ、TBSラジオとJ-WAVEの番組に出演し、出崎を招いて彼の商業映画のプロモーション番組の司会役を務めていた人たちです。すなわち、学術研究ではなく同一の方向性の運動に熱心に取り組んでいる、いわば運動上の仲間であり、中野教授につらなる運動上の人脈の中にいる人です。
 従って、A教授は決して中立的な第三者ではなく、中野教授と共通の利害関係をもつ、深いつながりのある人物であり、今回の件について公平な判断を期待することはできないと言わざるを得ません。すなわち、上記(a)の原則に反します。しかも、同教授は学内から選ばれた唯一の教授職の方であるため、内規の規定によって自動的に調査委員会の委員長に就任することになります。
 従って、私はA教授について委員として忌避いたします。800人もいる上智大学の教授の中から、形式的にも実質的にも中野教授の人脈に属さない人を選ぶのは容易なことと想定されます。よりによって、中野教授と人脈的につながる人物は避けるのが常識ではないでしょうか。

 (8)次に、②のB氏は、学長付の職員ということで、特に異議をはさむ理由はありません。

 (9)③④⑤は、「外部有識者」となっていて、委員5名中3名を占めていますが、これは内規第11条第3項で「調査委員会の委員の過半数は、上智学院に属さない外部有識者でなければならない」という規定によるものと理解できます。しかしながら、③のC氏は、肩書きは単に「外部有識者」とのみ表記されていますが、上記の(a)(b)(c)いずれの原則からも、調査委員会の委員としては不適格と言わざるを得ません。
 第一に、C氏は、上智大学に在籍(1992~2009)していた現上智大学名誉教授です。そのうえ、本件被告発者である中野晃一氏(上智大学比較文化学部講師としての着任が2002年)と在任期間も重なります。上記(b)の原則に明確に違反し、「外部」有識者としての客観性を全く欠いております。
 第二に、C氏は、既に現役を退いた名誉教授であり、調査報告でどのような結論を導こうと自身の学術的信用が今後のキャリアに影響するリスクがないため、中立性を担保する資格に欠けると言わざるを得ません。すなわち、上記(c)の原則に反します。
 第三に、すでにA教授について述べたのと同じ理由で、中野教授と同質の方向性を共有している方であり、本件研究において扱われたテーマに関連して、私たちを敵対視するような政治的立場から活発に発言・活動する人物です。
 例えば、C氏は「憲法9条にノーベル賞を」という運動団体の支援者であり、中野、C両氏がこの団体の呼びかけ人になっています。また、「表現の自由を考えよう 市民らが25日、茅ヶ崎で学習会」(2019年1月22日付け神奈川新聞ネット記事)のように、活発な活動を地元でも行っています。このような人選は、上記(a)の原則に反することは明瞭で、この段階に至ってさえもなお、厳正中立な観点から事件を解明するのではなく、研究上の不正行為の実行者らと通謀し事件を有耶無耶にしようとする意図があるのではないかと、疑わざるを得ないものです。
 以上の理由から、C氏についても、忌避させていただきます。

 (10)外部有識者のうち、残りの2名は、いずれも弁護士となっております。しかも、二人の弁護士は、同一の法律事務所に所属しています。お二人は上智大学の顧問弁護士なのかもしれません。こういう状況のもとで、公正な調査と審議が期待出来るのか、はなはだ疑問です。かりに貴学の顧問弁護士でなくても、なぜ同一の弁護士事務所から外部有識者を任命しなければならないのか、疑念を禁じ得ません。外部有識者には公平な判断をできることが外見上も明らかな人物を選ぶべきです。この点、人選枠組みの再考を求めます。

 *9月4日付け学長名による通知の求めに応じて9月11日に学術情報局研究推進
センターに提出した異議申立書。ただし、委員名は、A,B、Cなどと匿名化した。
 3回に分けて連載する。(藤岡信勝記)

2019年(令和元年)9月11日
上智大学 学長 嘩道 佳明 殿

藤岡 信勝
〒112-0005東京都文京区水道2丁目6-3
新しい歴史教科書をつくる会気付け

異 議 申 立 書

 (1)9月4日午前、貴職から「研究活動上の不正行為に係る調査について(調査の実施及び調査委員会委員の通知)」と題する文書を落手いたしました。私は、「上智大学における研究活動上の不正行為に係る調査の手続きに関する内規」(以下、「内規」と言う)第15条第2項に基づき、「調査委員会委員に関する異議」を申し立てます。

 しかし、調査の内容(主題)に関しても重大な異議がありますので、併せて申し述べます。その理由は、調査の内容(主題)と調査委員会の委員に対する疑義が密接・不可分に関係しているからです。そこで、話の順序として、調査の内容(主題)に関する問題から先に述べることといたします。

 (2)私は、上智大学を舞台にして、学術研究の名を騙って行われた一連の不正行為によって、自身の社会的名誉と信用を毀損される被害を受け、その被害は今現在も継続・拡大しております。事件の概要は、上智大学の大学院生の学術研究に私たちが研究対象者として協力したところ、その研究資料(インタビュー映像)を、私を一方的に攻撃し侮辱する内容の商業映画の作成に無断で利用され、全国で一般公開されているというものです。
 その研究手続きは、研究協力者への権利侵害を未然に防ぐために大学が定めている研究着手条件に一切従わず、また、実際にも、必要な措置を全く履行しない形で実施されました。この研究上の不正行為によって、私は被害を未然に防ぐ機会を奪われました。
 しかし、この不正行為は、単に貴学の元大学院生の暴走によって起こったというものではありません。その不正行為において、主たる実行犯である大学院生を指導する立場にあった指導教授自らが、着手段階から一貫してこの計画を企画・推進していた、いわば「共同正犯」であることが明らかになっているのです。
 ですから、私たちの告発は、当然ながら元大学院生・出崎幹根のみならず、担当指導教授であった中野晃一氏をも対象としているのです。このことは、私が執筆し、市販雑誌に掲載された二つの文章のタイトル、すなわち、「慰安婦ドキュメント『主戦場』 デザキ監督の詐欺的手口」(『月刊Hanada』2019年8月号)と「『主戦場』指導教官中野晃一上智大学教授の責任」(『同誌』2019年9月号)からも明らかです。これらの文章は、貴学の側でも十分に承知されているはずです。

 (3)私は、このように、この問題を社会一般に向けて発言しているだけでなく、貴学に対しても直接告発し、問題を提起して参りました。まず、4月27日、私は同じ被害者の藤木俊一、山本優美子とともに3名の連名で、不正行為が行われた上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の委員長あてに、問題の発生した経緯を説明するとともに、インタビューに訪れた3名の元大学院生と指導教授に関する質問状を送りました。ところが、委員長からはこれに対し、本人の文書による許可がなければ答えられないとの返信が送られてきました。これは、被害者が、加害者の所属機関に被害を訴えているのに、加害者の同意がなければ、機関として対応しないということです。あまりに不可解ゆえに、私たちは再度、念を押して質問しましたが、同じ返答が返ってきました。以上が第一段階です。
 そこで、6月21日、私は上智大学の卒業生である山本優美子の協力のもとに、研究倫理上問題のある事案の告発窓口として「研究倫理に関するガイドライン」で定めている監査室に電話をし、窓口担当者に30分ほど説明をしました。そして、貴学の責任者の立場にある学長または研究倫理担当の副学長に説明するためのアポを求めました。その趣旨は、事態が悪化する前にこの件について、学問の府である大学にふさわしい主体的な判断によるけじめをつけてもらうことを期待したからです。
 ところが、これに対する当方への返事は、学長・副学長との連絡がつかない、連絡はついたが検討中である、面会するかどうかも検討中だ、いつまでに結論を出すかは答えられないなどの全く誠意を疑われる対応に終始するものでした。なお、この時点までには、4月19日の参議院議員会館における中野晃一教授の講演で、同教授が出崎の担当教授であることを自ら名乗り出ていました。以上が第二段階です。

 (4)上智大学当局において、事態の深刻さを理解する様子が全く見られないために、私たちは、やむなく、8月29日、内容証明郵便にて「通告書」を上智学院理事長並びに上智大学学長宛てに代理人経由で送付しました。これが第三段階で、この内容証明郵便による「通告書」の送付は、上記の第一段階と、第二段階の貴学の対応の結果として生じたもので、事態は一貫した一連の流れの中にあるものです。
 従って、調査委員会は、その検討課題として、「通告書」の中で触れている研究不正について遺漏なく検証することが義務づけられています。また、調査委員会の人的構成も、「通告書」において告発している内容を踏まえて構成されなければなりません。
 もしも、本調査委員会と「通告書」に直接の因果関係がないと主張されるのであれば、貴学は6月21日の告発電話の続きとして当方の事情聴取から始めなければならないはずです。私たちに告発の趣旨を説明させ、文書その他の証拠を受領する必要があります。「通告書」を調査委員会でとりあげないのであれば、私たちの告発のステートメントは完結しておらず、何を検討課題としてどのような人選をすべきなのかの起点が存在しなくなるからです。

Follow by Email