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「主戦場」監督への反論文

「ニューズウィーク日本版」七月九日号(七月二日発売)

藤岡信勝(教育研究者)

★8月29日、ケント・ギルバート他5名が、代理人弁護士を通して、上智大学に「通告書」を内容証明郵便で送りました。6月21日、研究上の不正行為を告発する窓口として指定されていた大学の監査室に被害を申し出たにも関わらず、一切無視されてきたので、やむを得ず取った手段でした。
すると上智大学は一転して対応を変え、9月4日、学長名で「調査委員会」を設置したので、学内手続きの必要から委員について異議があれば7日以内に異議申立書を提出せよと求めてきました。わずか1週間の猶予しかありませんでしたが、期限の11日、上智大学研究推進センターに出頭し、事務の担当者にA4・6ページの文書を手交して来ました。調査委員会なるものの実態については、いずれ書くことになるでしょう。(9月12日、藤岡信勝記)


大学院生の卒業制作を名乗り「合意書」にも違反ー議論を呼ぶ慰安婦映画の「出演者」がデザキ監督に反論

本誌「ニューズウィーク日本版」の19年6月25日号に「『主戦場』の新たなる戦場」というタイトルの記事が掲載された。筆者は朴順梨(以下、人名は全て敬称略)で、今後はこの記事を「朴レポート」と呼ぶことにする。
私・藤岡は、自分の意思に反してこのドキュメンタリー映画に「出演」させられている者の一人だが、藤岡のインタビューが入場料1800円で一般の劇場で上映される商業的目的の映画に使われるとは夢にも思わなかった。寝耳に水である。
慰安婦問題の最も大きな論点は、慰安婦は単なる売春婦であったのかそれとも性奴隷だったのかという問題だ。映画は「慰安婦=性奴隷」説に立ち、この説に反対する人物に「歴史修正主義者」などのレッテルを貼っている。
そこで、映画の中でこの種の不当な扱いを受けた櫻井よしこ、ケント・ギルバート、加瀬英明、トニー・マラーノ、藤木俊一、山本優美子、藤岡信勝の7名は連名で共同声明を発表し、5月30日に抗議の記者会見を開いた。
それに対しこの映画の監督ミキ・デザキは私たちの記者会見の同日、同時刻に合わせてYouTubeに反論の動画を流し、さらに6月3日には配給会社「東風」の役員や弁護士と共に対抗する記者会見を開いた。朴レポートはデザキサイドに立って書かれたものである。
本稿では当事者の一人として、この記事に反映されたデザキの主張に対し、2つの論点に絞って反論したい。他の論点については、紙幅の都合で別の機会に譲る。

●「卒業制作」の触れ込みで
第一の論点は、インタビューが何を目的にしてなされたかという問題である。デザキは藤岡あての最初のメールで、上智大学の大学院生を名乗り、インタビューの目的を次のように書いてきた。
「卒業制作として、他の学生と共にビデオドキュメンタリーを製作しておりまして、ドキュメンタリーは『歴史認識の国際化』をテーマとしています。ご承知の通り、現在、慰安婦問題には多くの国々が関わっています。問題に関わっている方々やその活動について学ぶと共に、権威でいらっしゃる藤岡先生のような方からもご見解をお聞かせ願いたく存じております」
歯の浮くようなお世辞はともかく、かつて大学教員のはしくれであった藤岡も学生を指導していた時には、外部の方々にいろいろお世話になった。だから、大学院生の卒業研究のためなら協力しなければならないと思ったのだ。
山本優美子に対するメールは、もっと詳細にその目的を述べていた。「これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさなければならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません」「公正性かつ中立性を守りながら、今回のドキュメンタリーを作成し、卒業プロジェクトとして大学に提出する予定です」
このように、私たちは例外なく、「学術研究」「卒業制作」「卒業プロジェクト」であると説明されて、その前提で協力し、文書にサインしたのである。「出来がよければ、映画祭への出品や一般公開も考えている」と伝えたとデザキは言うが、藤岡は一切聞いていない。
ところが、朴レポートでデザキは、承諾書・合意書には「学術プロジェクトとは一切書かれていない」とシラを切っている。アプローチの段階では、商業映画であることを隠蔽し、映画を公開するときは、それが大学院の卒業制作であることをあくまで隠す。これはデザキの企画が初めから巧妙に仕組まれたものだったことを疑問の余地なく示している。
第二の論点は、デザキの行為が合意書に明白に違反しているという問題である。
藤岡はデザキの研究的な誠実さを一貫して疑わなかったが、一度だけ不審の念を抱いた瞬間があった。それは、インタビューのあとデザキが契約書にサインを求めた時だった。〈大学院修士課程修了に必要な卒業制作であると言っておきながら、人に契約させるとは何事だ〉と藤岡は腹の中で思った。
それで、「そういう契約書にサインすることは趣味に合わない」と言って文書を見ることもせずにサインを拒否し、学生たちを追い返した。藤岡らを騙し商業映画をつくろうと企んでいたデザキは困ったのだろう。指導教官から「承諾書への藤岡のサインなしには卒業制作を続けてはならない」といわれた、修士を期限までに修了できない、と泣き落とし作戦に出た。

それでも藤岡が無視すると、今度は、デザキが藤木俊一と交わした「合意書」を送ってきて、これで何とかサインしてほしいと懇願した。読んで見ると、藤木が全面的に書き換えた「合意書」は、取材される側の権利も書かれていて、よく出来ている。それで藤岡は妥協して、合意書にサインしたのである(詳細は「月刊Hanada」8月号の拙論を参照)。

●明白な「合意書」の違反
デザキによる合意書の違反は、2点ある。順番に説明しよう。
①5項違反
合意書5項には次の規定がある。「甲[デザキ]は、本映画公開前に乙[藤岡]に確認を求め、乙は、速やかに確認する。」
本映画とはデザキの「卒業制作」を指す。それ以外の話は全く出ていなかったのだから、これ以外の解釈はあり得ない。ここで「公開」とは、作品が修士課程の修了を認めるに足る水準の内容であるかどうかをコースの教授陣が審査するために上映することである。紙の論文なら「提出」のみでよいが、ビデオ作品だから上映して「公開」しなければ内容を評価することは出来ない。「公開」には、学内で学生を対象に上映することも含まれる。その公開の「前に」映画を見せる、というのが5項の規定の意味である。
ところが、18年5月21日にデザキから送られてきたのは「映画」ではなく、「映画の中で使用する[藤岡の映像の]クリップ」だった。それでも、藤岡はクリップを見て感想を言うつもりだったが、多忙に紛れて期限の2週間が経ってしまった。その時藤岡は、どうせ映画が送られて来るのだから、その時に自分の映像も見ることができる、と軽く考えていた。
しかし、その後デザキは映画の映像を送ってこなかった。ただ、藤岡はデザキを疑っていなかったから、特に請求して送信を急がせることもせず、そのうちこのことは忘れてしまっていた。もしこの時、映画を見ていたら、「歴史修正主義者」などのレッテル貼りを絶対に見逃したはずがない。当方から請求しなかったからといって、5項の「不作為」がゆるされるものではない。
②8項違反
合意書の8項には、「甲[デザキ]は、撮影・収録した映像・写真・音声を、撮影時の文脈から離れて不当に使用したり、他の映画等の作成に使用することがないことに同意する」と書かれていた。藤岡は、デザキの「卒業制作」には協力したが、商業映画に使用してよいという許可を与えたことは一切ない。藤岡の許可なく、無断で、勝手に藤岡のインタビュー映像等を自分の商業映画に使ったデザキは、「他の映画等の作成に使用することがないことに同意する」という合意書の禁止規定に明白に違反している。これでデザキはアウトなのだ。

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