コンテンツへスキップ

慰安婦ドキュメント「主戦場」 デザキ監督の詐欺的手口 (2)

月刊Hanada 2019年8月号掲載

新しい歴史教科書をつくる会副会長
藤岡信勝

取材対象者へのアプローチ

 まず、出崎はどのようにして藤岡にアプローチしてきたのだろうか。

 出崎からインタビューに応じてほしいとの依頼を受けたのは、二○一六年八月十一日のメールだった。以下、全文を引用する。

出崎幹根から藤岡信勝へ(2016.8.11

 《藤岡 信勝 先生

 突然のメール失礼致します。上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の出崎幹根と申します。六月に中野サンプラザでの『国連が世界に広めた「慰安婦=性奴隷」の嘘』出版記念シンポジウムでお会いし、ご挨拶させていただきました。この度は、慰安婦問題に関して、藤岡先生にインタビューへのご協力をお願いいたしたく、ご連絡させていただきました。

 卒業制作として、他の学生と共にビデオドキュメンタリーを製作しておりまして、ドキュメンタリーは「歴史議論の国際化」をテーマとしています。ご承知の通り、現在、慰安婦問題には多くの国々が関わっています。問題に関わっている方々やその活動について学ぶと共に、権威でいらっしゃる藤岡先生のような方からもご見解をお聞かせ願いたく存じております。

 もしドキュメンタリーについて更にお知りになりたい場合は、何なりとお聞きください。インタビューにご協力いただけるようでしたら、仮の質問のリストをお送りします。宜しくお願い致します。      出崎幹根》

 意を尽くした立派な日本語の文章である。ただ、藤岡はこのメールにすぐに返事を出すことはしなかった。多忙でもあった。

 メールの交信記録を辿っていくと、次に出崎からアプローチがあったのは、八日後の八月十九日だった。この時は「新しい歴史教科書をつくる会」の事務所に藤岡宛のメールが送られてきた。つくる会を経由してのアプローチである。今度は無視することで会のイメージを損ねてはいけないという心理がどこかで働いた。

 つくる会経由の二回目のアプローチがなければ、藤岡のインタビューは実現しなかった。ターゲットとする人物に直接アプローチしてダメな時は組織を経由するとよいということは、営業マンの鉄則のひとつなのかもしれない。出崎の作戦はまんまと成功したことになる。

 二回目のメールは、最初のものと文面は同じだった。出崎のメールによれば、藤岡は一度出崎と会っていたことになる。出崎が言及している中野サンプラザでのシンポジウムとは、二○一六年六月四日に開催した藤岡信勝(編著)『国連が世界に広めた「慰安婦=性奴隷」の嘘』(自由社刊)の出版記念会を指す。この本は、二○一六年三月ころまでの、世界の国々にまたがる慰安婦問題の経過の整理と運動の総括を兼ねて、なかんずく二○一四年から始まった、ジュネーブの国連人権理事会や条約にもとづく各種委員会への代表派遣の意義と現状を明らかにするために出版したものであった。

  百人あまりの人が集まった出版記念会の会場では、学生風の三人組の人物がビデオを撮影したりしてごそごそやっているのは気付いていたが、集会が終わってから、女性の立場から慰安婦問題に取り組む「なでしこアクション」の山本優美子代表から紹介を受けていたことを思い出した。

 あれは上智の学生だったのか。道理であのとき、山本の出崎らを見る表情に、学生に対する保護者のような好意的な笑みがあった記憶が藤岡の中で甦った。学生たちは山本の大学の後輩にあたるのだ。

 藤岡は、「返事が遅れて申し訳ありません。インタビュー、お引き受けします。日程を調整したく存じます。ご希望の日時をお知らせ下さい」という文面のメールを送った。八月二十一日のことだった。

 ●人を乗せる鉄則に合致

  ここまでのところを、小さく総括してみる。藤岡は、メディアの取材で何度も裏切られた苦い経験を持ち、従ってそれなりに警戒心を持っていたはずだが、出崎はどのような仕掛けで藤岡をインタビューに引っ張り出すことに成功したのだろうか。

 第一に、そして今回の係争問題の発生において最も重要なポイントは、出崎が大学院生の身分を獲得しており、しかも、インタビューでも真面目そうな学生を演じ切ったことだった。私学の名門・上智大学という名前のブランド力も、人を信用させる重要な要素のひとつだ。ブランド力の利用は、詐欺師の常套手段でもある。

 藤岡が過日観たテレビのワイドショウでは、いわゆる「オレオレ詐欺」の手口として、「NHK静岡放送局の世論調査」を装って被害者にアプローチした事例が取り上げられていた。ここでは「NHK」のブランド力が利用されている。

 さらに言えば、複数の学生で行動したのも、ビデオ撮影などの手間が実際に必要だったとはいえ、確かに学生のグループなのだと人を安心させる要素になっている。出崎ひとりが歩き回っている図と比べる思考実験をしてみれば、両者の違いは明らかだ。

 第二に、学生といえども、いきなり未知の者からメールや電話をもらったら、信用出来るかどうかを疑い、警戒するのが普通であろう。出崎はその恐れをなくすために、保守派の集会に顔を出し、ターゲットに顔つなぎをしていた。先輩の山本を「ゲイト・パーソン」(民族誌的な研究において使われる専門用語)にしたのも、うまい作戦だ。実社会では、同郷に次いで同門がビジネスのきっかけになることがしばしばある。そして藤岡宛のメールに、話の糸口として「集会でご挨拶した」と書く。

 メールの中で、藤岡の編著書のタイトルを正確に書いていることも見上げたものだ。これを抽象的に「出版記念会で」というのと比較してみれば効果は歴然だ。ただし、その本を出崎が読んでいないことだけは間違いない。

 第三に、一度無視されたり拒否されたりしても、諦めずに粘り強くルートを変えてアプローチする。藤岡の場合、「つくる会」という組織を経由している。藤岡にとって「つくる会」は大切な組織なので、そこに迷惑がかかってはいけない、という無意識の心理が作用したらしいことはすでに書いた通りだ。  以上の三つが、藤岡の場合の基本的仕掛けなのだが、まとめてみると、人を乗せるための鉄則に合致しているとはいえ、ありきたりで単純なものだ。しかし、それをここまで実行する人はそんなに多くはない。

(続く)

Follow by Email
Facebook
Twitter